掌蹠膿疱症を学ぶ
2018.09.03

掌蹠膿疱症の原因が皮膚じゃないって本当!?

掌蹠膿疱症は手のひらや足の裏に膿疱ができる皮膚の病気です。「何か悪いものに触ってしまったかな?」と考える人がいらっしゃるかもしれません。でも、そうではないのです。実は、掌蹠膿疱症の多くは「口の中」に原因があるといわれています。ここでは掌蹠膿疱症の原因と、なぜ原因が口の中にあるのに手足に症状が現れてしまうのかについて詳しく解説します。

歯科治療を受ける女性

掌蹠膿疱症の原因はどこにある?

手足に膿疱ができる掌蹠膿疱症(しょうせきのうほうしょう)ですが、意外にもその多くは「口の中」に原因(あるいは悪化要因)があるといわれています。

実際に、東京都にある聖母病院の皮膚科で掌蹠膿疱症の患者238人の発症原因を調べたところ、

  • 歯性病巣:47%
  • 病巣扁桃:22%
  • 歯性病巣&病巣扁桃:12%
  • 金属アレルギーなど:5%
  • 不明:14%

という結果になったと報告されています[1]。

「病巣」というのは、簡単に言うと「細菌が巣を作って増殖している」という意味です。「歯性病巣」というのは歯に、「病巣扁桃」は扁桃に細菌が巣食っていることを指します。

つまり、掌蹠膿疱症の患者のなかには、歯か扁桃に細菌が巣を作っているのが原因(悪化要因)となっている人がいるということです。

なぜ歯や扁桃が原因で掌蹠膿疱症になる?

しかし、歯や扁桃に細菌がいるからといって、手のひらや足の裏に膿疱ができるのは不思議ですよね。しかも、細菌が巣食っている扁桃そのものには目立った症状が出ないことがほとんどです[1]。これはいったいどういうことなのでしょうか?

口の中には常在菌がいっぱい

口の中には、多くの細菌がいるということはご存知でしょうか? 人間の身体と外部が接している部分、すなわち皮膚、口の中、消化管の中には細菌が住み着いています。近年注目されている腸内細菌がまさにそれで、人間とうまく共生しています。こういう菌のことを「常在菌」といいます。

口腔内の解剖

口の中には常在菌がたくさんいます。さらに飲食物やホコリなどに含まれて外部からやってくる新たな細菌もいます。これらの中から、身体に悪さをする細菌などを排除する役割を担っているのが「扁桃腺」(正しくは扁桃腺を含むワルダイエルリンパ組織)です。扁桃腺は普段、身体にとって悪い細菌は攻撃し、特に問題ない細菌はスルーしています。このスルーする仕組みは専門用語で「免疫寛容機構」と呼ばれます。

常在菌なのにスルーできない

掌蹠膿疱症の患者では、このスルーする仕組み(免疫寛容機構)が破綻してしまい、口腔内によくいる常在菌であるα溶血性レンサ球菌(α-streptococcus)を「敵」とみなしてしまうようになります。免疫細胞(リンパ球)は飛び道具である「抗体」を作り出し、α溶血性レンサ球菌を捕らえようとします。

このときに作られる抗体は、人間の皮膚にあるタンパク質にもくっつきやすい性質があります。本来は「敵」だけにくっつけばいいのに、「味方」にも間違ってくっついてしまうというわけです。これが目印となって、扁桃腺にいた免疫細胞が血液に乗って移動し、手のひらや足の裏の皮膚に集まってきます[2]。

菌がいないのに戦ってしまう

手のひらや足の裏の皮膚に集まってきた免疫細胞は、膿疱を作り出します。

膿疱とは、膿の入った水ぶくれのことです。一般的に膿といえば、傷口が化膿したときに出る黄色い汁を指します。この場合は傷口に細菌が感染して、免疫細胞がそれと戦った結果としてできるものなので、膿のなかには細菌や免疫細胞、はがれた周囲の皮膚組織などが含まれています。

しかし、掌蹠膿疱症でできる膿疱には、免疫細胞はいますが細菌はいません。それもそのはず、細菌がいるのは口の中なのですから。でも「攻撃命令」が出ているので、集まってきた免疫細胞は細菌がいなくても攻撃をしてしまいます。やがて免疫細胞は死に、それが集まって膿に、やがて膿疱になっていくのです。このように細菌のいない膿疱のことを無菌性膿疱といいます。こうして掌蹠膿疱症が発症します。

掌蹠膿疱症の原因を突き止めるには?

この記事の冒頭で「掌蹠膿疱症の患者のなかには、細菌が歯や扁桃に巣を作っている人がいる」と書きました。ここまで読んでくださった方は、細菌が悪いというより、人間の免疫機能が勘違いしてしまっているのが本当の理由だとご理解いただけたと思います。

歯性病巣や病巣扁桃が原因となっている掌蹠膿疱症の治療法としては、一つは勘違いしている扁桃を手術で取ってしまうこと、もう一つは歯の治療をして細菌の数を減らし、扁桃が過剰反応しないようにすることです。いずれもよく効くことがある治療法としてよく用いられています[1]。

※これらの治療について詳しくは『掌蹠膿疱症の悪化因子を取り除く処置』をご覧ください。

歯が原因?それとも扁桃が原因?

掌蹠膿疱症の原因が歯にあるのか、それとも扁桃にあるのかはどうやって調べるのでしょうか。

冒頭で紹介した報告では、歯性病巣がメジャーな原因としてあげられていました。また扁桃に原因があるかどうかをはっきりと当てる検査法がまだ開発されていないので、まずは歯に原因があるかどうかを調べるのが合理的です[1]。

歯周病の進展

掌蹠膿疱症と関連する歯の病気として重要なのは、歯周炎です。上のイラストは歯周炎を表したもので、右に行くほど重症度が高くなります。歯周炎が悪化するほど歯周ポケットが深くなり、ここに多くの細菌が溜まり、増殖して炎症を起こします。また、歯を支えている歯槽骨(クリーム~茶色の網目部分)が消えていきます。こうなると歯の支えが弱り、グラグラするようになります。

口の中の細菌がある程度いるのは普通ですが、歯周炎が悪化して多くの細菌が溜まるようになると、これは非常事態です。免疫細胞が動員され、本来はスルー対象であったα溶血性レンサ球菌もろとも「敵」とみなして攻撃するようになります。こうして、前に述べたような過程を経て掌蹠膿疱症につながっていきます。

歯周炎だけでなく、虫歯(齲歯)や歯の欠損によって細菌が歯の奥に入り込み、歯の付け根の部分に留まって膿瘍になると(根尖病巣)、やはり同様に免疫を刺激して掌蹠膿疱症のリスクを高めます。

皮膚科で掌蹠膿疱症と診断されたら、その原因を調べるために歯科を受診するように指示されることがありますが、その理由がおわかりいただけましたでしょうか。

扁桃に原因があるかどうかを調べる試験

最後に、扁桃に問題があるかどうかを調べる試験について簡単に紹介しておきます。これには大きく分けて2つあります。

扁桃誘発試験
扁桃に物理化学的刺激を加えて、起きた生体反応から判定する方法
(扁桃マッサージ法、超音波誘発法、ヒアルロニダーゼ法など)
※1日でできる
扁桃打消試験
扁桃の炎症を抑えて皮膚症状が改善するかどうかを判定する方法
(インプレトール法、扁桃陰窩洗浄法、扁桃吸引法など)
※4~7日連日で行う

ただし、扁桃誘発試験や扁桃打消試験を行って、本当に扁桃が原因になっていると当たる率(診断的中率)は約4~6割と低いのが難点です(掌蹠膿疱症ではない健康な人が受けても約3割が陽性と判定されてしまいます)[2]。このため、これらの試験だけではなく、扁桃腺に関するさまざまな所見を参考にして決める必要があります。

扁桃腺を診るプロフェッショナルは耳鼻咽喉科の医師です。治療方針を決めるために、皮膚科医から耳鼻咽喉科を受診するよう紹介状を持たされることがありますが、それにはこのような理由があるからです。

このように、掌蹠膿疱症は皮膚の病気ではありますが、皮膚科だけでなく歯科や耳鼻咽喉科などと協力して治していく病気なのです。くれぐれも「匙を投げられた」「たらい回しにされた」などと勘違いしないでくださいね。

参考文献

  1. [1]小林里実. 病巣感染と掌蹠膿疱症, Visual Dermatology 2012; 11(10): 1036-1041
  2. [2]藤城幹山ほか. 扁桃誘発試験を見直す, Visual Dermatology 2012; 11(10): 1048-1051

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