掌蹠膿疱症を学ぶ
2018.09.03

掌蹠膿疱症の新たな治療薬「生物学的製剤」

ひと昔前まで、手足に無菌性の膿疱ができる掌蹠膿疱症のメカニズムはよくわかっていませんでした。手探りでさまざまな治療法が試され、現在の局所療法や全身療法の体系ができ上がりました。近年では病態の理解が進み、その知見を応用した「生物学的製剤」という新たな治療薬が登場してきています。ここでは、掌蹠膿疱症の治療に用いるグセルクマブなどの生物学的製剤についてやさしく解説します。

新薬の研究開発

掌蹠膿疱症における生物学的製剤の位置づけは?

掌蹠膿疱症(しょうせきのうほうしょう)の治療は、まずステロイド外用薬やビタミンD外用薬を用いた外用療法を行います。これであまり効かない場合は光線療法や全身療法(抗菌薬、エトレチナート、免疫抑制薬など)も併せて行われます。

※これらの治療法について詳しくは『掌蹠膿疱症の皮膚症状を改善する治療薬(局所療法)』『掌蹠膿疱症のオプション治療(全身療法)』をご覧ください。

ほとんどの患者さんはこれらの治療で症状が改善しますが、なかなか治りにくい人もいます。近年では、このような難治性の掌蹠膿疱症に対して、新たな治療法が開発されています。それが「生物学的製剤」です。

生物学的製剤ってなに?

生物学的製剤は、生きた生物によって作られる医薬品です。一般的な薬は化学的につくられた化合物(低分子)ですが、生物学的製剤の多くはタンパク質(高分子)でできていて、もともと身体の中で働いている物質と似たような作用を持ちます。

生物学的製剤にはいくつかの種類がありますが、掌蹠膿疱症で使われる生物学的製剤は「抗体医薬」と呼ばれる種類のものです。抗体とは、体内の免疫が細菌やウイルスなどの病原体や異物などを排除するときに使う飛び道具のようなもので、特定の形をしているものにくっつくという性質があります。

病気を引き起こすもとになっている物質にくっつく抗体を作れば、その作用を打ち消すことができます。このような考えのもと、最新のバイオ技術で作られたのが抗体医薬なのです。

掌蹠膿疱症の抗体医薬にはどんなものがある?

掌蹠膿疱症に保険適用のある抗体医薬はまだなく、開発中です。

掌蹠膿疱症の研究が進むにつれ、乾癬という病気の発病メカニズムと共通している部分があることがわかりました。このことから、乾癬の薬を掌蹠膿疱症にも応用することができないかという考えのもと、研究開発が進められています。乾癬の治療に用いられている抗体医薬には、下記のようなものがあります。

  • TNF-α阻害薬(インフリキシマブ、アダリムマブ)
  • IL-17A抗体(セクキヌマブ、イキセキズマブ)
  • IL-17受容体A抗体(ブロダルマブ)
  • IL-12/23p40抗体(ウステキヌマブ)
  • IL-23p19抗体(グセルクマブ)など

とはいえ、このように羅列されても何がどう効くのかよく分からないですよね。これからわかりやすく説明します。

抗体医薬はどのように作用するの?

下の図は、掌蹠膿疱症が発症するメカニズムをわかりやすく示したものです[1]。詳しくは『最近わかってきた掌蹠膿疱症の病態メカニズム』をご覧いただきたいのですが、ごく大雑把にいうと、樹状細胞がTh17細胞を活性化し、Th17細胞は表皮の角化細胞に命令を出して好中球を集合させます。そして好中球が集合した部分(手のひらや足の裏など)に膿疱ができるという流れです。

掌蹠膿疱症の病態メカニズムとサイトカイン

この図のなかで、樹状細胞などいろいろな種類の細胞が出している物質が「TNF-α」です。これは免疫細胞どうしがやりとりするときに使う情報伝達物質(サイトカイン)の一種で、炎症を引き起こすときに多く出ます。TNF-α阻害薬(インフリキシマブ、アダリムマブ)は、このTNF-αの作用を阻害して、免疫細胞が炎症を起こすのを抑制します。

また、この図の中心にいるTh17細胞の働きを抑制するという治療法もあります。Th17細胞は主にIL-17という物質で角化細胞に命令を出すので、このIL-17の作用を阻害する薬が選択肢となります。具体的にはIL-17A抗体(セクキヌマブ、イキセキズマブ)やIL-17受容体A抗体(ブロダルマブ)がそれにあたります。

さらに手前の、樹状細胞がTh17細胞を活性化するのを抑制する治療法もあります。そのときに使われる物質はIL-23なので、これを阻害するIL-12/23p40抗体(ウステキヌマブ)やIL-23p19抗体(グセルクマブ)が使われます。

このように、免疫細胞はお互いに情報伝達物質を使ってやりとりをしています。その物質の作用を阻害することで症状を抑えるのが抗体医薬(生物学的製剤)なのです。

掌蹠膿疱症の抗体医薬はどのくらい効く?

では、抗体医薬はどのくらい掌蹠膿疱症の症状を抑えることができるのでしょうか。2018年2月に発表された日本での臨床試験の結果を簡単にご紹介します[2]。この試験はIL-23p19抗体(グセルクマブ)を用いたものです。

通常の治療では治らなかった人が対象

この試験の対象者は、中等度~重症の掌蹠膿疱症で、通常の治療(ステロイド外用、ビタミンD外用、エトレチナート、光線療法)を行ってもその効果が不十分な患者としました。日本にある11施設(大学病院など)で参加者を募ったところ、この条件に合っていて試験に協力してくれる人が49人見つかりました。

正確な結果を得るための方法

一般的に薬の効果を調べるには、本物の薬を投与するグループと、偽物の薬を投与するグループとに分けて、結果を比較します。患者や主治医には、投与する薬が本物か偽物かは教えませんし、どっちのグループに振り分けるかもランダムにくじ引きで決めます。そうしないと、正確な結果を得ることができないからです。

今回の試験でも同様に、参加してくれた49人をランダムに振り分けて、25人は本物の薬(グセルクマブ)、24人は偽物の薬(プラセボ)を投与されました。最後まで予定していた試験内容を完遂したのはそれぞれ23人と18人でした。

治療効果を調べるための指標

さて、次に結果をどのように計測するのかですが、この試験ではいくつかの指標を使っています。このうちメインで用いられたのは「PPSI合計スコア」です。PPSIとは掌蹠膿疱症の重症度指数(palmoplantar pustulosis severity index)という意味です。手のひらや足の裏に出る皮膚症状(紅斑、膿疱、落屑)の重症度を数値化し、0~12で表します。なお、試験を行う前のPPSI合計スコアは平均9.3でした。

グセルクマブの有効性が証明された

本物の薬(グセルクマブ)を投与された25人は、投与後16週の時点でPPSI合計スコアが平均で3.3減りました。一方、偽物の薬(プラセボ)を投与された24人は1.8減りました。つまり、偽物の薬よりも本物の薬の方がより症状が改善したということです。もし、グセルクマブに有効性がなかったら、プラセボと同じ程度しかスコアが減らないはずですよね。プラセボよりグセルクマブの方がスコアの減りが大きいということは、グセルクマブに有効性があるということです(なお、プラセボでも少し効くのはどの薬でもよく見られることです)。

ちなみにこの差は偶然ではなく、統計学的に意味のある差であると証明されています。また、投与後24週に確認してみてもグセルクマブ群は-3.9、プラセボ群は-2.5で、この差は維持されました。

血清IL-17が減った

グセルクマブはIL-23p19抗体ですので、樹状細胞がTh17細胞を活性化するのを抑制する働きがあります。実際にこの薬を投与した患者の血液検査をしたところ、血清中のIL-17の量が減っていました。つまり、グセルクマブの薬効によってTh17細胞が活性化しなかったので、結果的にIL-17が放出されなかったということになります。

グセルクマブによるIL-23の抑制

グセルクマブの安全性

最後に、気になる副作用についてもお伝えします。この試験で副作用を報告したのはグセルクマブ群で76%、プラセボ群で75%でした。主なものは鼻咽頭炎(29%)、頭痛(6%)、接触皮膚炎(6%)、注射部位の紅斑(6%)であり、ほとんど軽度~中等度のものでした。グセルクマブもプラセボも同じくらいの副作用の割合ということに着目して解釈する必要があります。

偽の薬なのに副作用が起こるのは不思議ですね。試験を受ける前に全員が想定し得る副作用の説明をされますので、そのことが影響している可能性があります。人間の思い込みというのは、有効性にも安全性にも影響を及ぼすものなのです。薬の臨床試験でわざわざ偽の薬を投与されるグループが設定されているのは、これが理由です。

まとめ

このように、グセルクマブのような抗体医薬はピンポイントに作用して、通常の治療が効かなかったような患者でも症状を改善することができます。医学が発展して病態メカニズムがわかってきたからこそ、ピンポイントに効く薬が開発されてきたのです。もし通常の治療があまり効かなくても、いろいろな選択肢がありますので、主治医と相談しながらより良い治療を選択していきましょう。なお、現在のところ、この記事で紹介した薬は掌蹠膿疱症での保険適用はありません。

参考文献

  1. [1]藤田英樹. 乾癬における免疫制御療法. 日大医誌 2017; 76(1): 31-35
  2. [2]Terui T et al. Efficacy and Safety of Guselkumab, an Anti-interleukin 23 Monoclonal Antibody, for Palmoplantar Pustulosis: A Randomized Clinical Trial.JAMA Dermatol. 2018 Mar 1;154(3):309-316.

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